ヤクルト5-3阪神
石川の投球内容もチームの試合内容も冷静に振り返れば、課題が浮き彫りになるゲームだったと思う。しかし今日は、石川の187勝目となる24年連続勝利をファンとしてしっかり噛み締めたいと思っている。それがファンの特権である。
石川雅規の物語
・青山学院大学から01年のドラフトの自由枠でプロ入りした石川は、プロ1年目となった2002年シーズンから毎年勝利を積み重ねてきた。青山学院時代に日本代表に選出され、プロの選手と一緒にシドニーオリンピックを経験しただけあって、1年目から先発としてしっかり結果を残し、新人王も獲得してみせた。その後打高投低の時代に苦しんだこともあったのだが、そこから投球スタイルに変化を加えながらコンスタントに勝利を積み重ねていった。30代後半に差し掛かってからは、1試合で投げる球数が減ってきたり、登板間隔が長くなったりとしてきたのだが、それでも技巧的な投球で1軍の舞台で投げ続けてくれた。2015年、2021年、2022年には、チームをリーグ優勝に導き、2021年には日本一にも貢献してみせた。その後は、中々勝ち星に恵まれず、1つ勝つだけで周りがお祭り騒ぎをしてしまうような状況になっているのだが、それでも勝利に貪欲な姿勢を見せ続ける石川には頭が下がる思いである。
今シーズンは、オープン戦で結果を残し、文句なしで先発ローテを勝ち取ってみせた。登板予定日が雨で流れ、今日が今シーズン初登板となったのだが、5回3失点で何とか粘り切ったことが勝利に繋がった。間違いなく衰えはある。それでもまだまだ石川雅規の現役選手としての物語が続いていくことを願っている。今日の勝利をきっかけに、「石川が先発する日は負けない。」という空気感を作り出してもらいたい。
石川雅規と高津監督の物語
・石川がヤクルトに入団した時に、チームのクローザーとしてバリバリのスター選手だったのが高津監督である。高津監督のインタビューやコメントを聞いていても石川には他の選手とはまた違った特別な思いを抱いていることが伝わってくる。しかし監督として特別扱いすることなく、冷静に石川の実力を見極めていることが伝わってくる。「勝たせたい。」という気持ちは伝わってくるが、あくまでも「勝ち星は自力で勝ち取れ。」というスタンスだと感じる。今日の勝利を喜びつつも、今後の石川の起用法について冷静に考えているのが高津監督なのではないだろうか?
・それでも6回表に茂木に代えて増田を代打に送った場面では、この回でひっくり返したいという高津監督の思いを感じることが出来た。
石川雅規と中村悠平の物語
・石川は、01年のドラフトの目玉選手の一人だった。左肘の故障については不安要素だったのだが、ヤクルトを逆指名してくれたことは当時多少なりとも驚きであった。決め手の一つが当時のNPB№1捕手の「古田にボールを受けてもらいたい。」というものだったと記憶している。シドニーオリンピックのアジア予選でボールを受けてもらっていたと思うのだが、石川にとってその時の印象が強烈だったのかもしれない。ヤクルト入団後は、その古田とバッテリーを組み、勝利を重ねていった。
今日バッテリーを組んだのは、古田と同じ背番号27を背負う中村悠平だった。中村も2008年のドラフト3位で福井商業から入団した35歳のベテラン捕手なのだが、その中村悠を育てた投手の一人が石川だったはずである。中村がようやく正捕手を掴み取ろうとしていた時に石川は、すでにベテランと言われるような年齢に差し掛かっていた。打者を圧倒するタイプではない石川の投球術は、受ける捕手としても勉強になる部分が多いはずである。そんな中村悠は、今やヤクルトだけでなく、NPBを代表する捕手の一人となった。背番号27の古田と背番号27になった後の中村悠とバッテリーを組んでいるということだけでも石川がどれだけ長い間ヤクルトで投げ続けてくれているのかが伝わってくる。
石川雅規と石山泰稚の物語
・石川に勝利をもたらすべく9回のマウンドに上がったのは、石川と同じ秋田県出身の石山だった。同郷出身者として特別なつながりを感じさせる選手の一人である。石山も今シーズン37歳を迎えるベテランなのだが、ここに来てクローザーを任されている。今でもボールのキレは健在であり、昨シーズンの春先以上に状態の良さを感じさせてくれる。
石川の勝ち星というものは、すでに石川だけのものではなくなっており、石川の勝ちの権利を守ることには大きなプレッシャーが圧し掛かる。今日は、甲子園でのゲームということもあり、一段と9回のマウンドは難しかったと思うのだが、危なげなく三者凡退で試合を締め括ってみせた。石川にとって特別な勝利は、石山にとっても特別な勝利になったはずである。
石川雅規と田口麗斗、荘司宏太の物語
・公称身長167㎝の石川、171㎝の田口、172㎝の荘司、いずれも小型サウスポーに分類される投手である。田口に関しては、ヤクルトに移籍した当初は先発を任されていたのだが、これだけ内外角へのボールの出し入れで打者と勝負出来る投手は、ヤクルトでは石川以来だなと感じさせてくれた投手である。気迫を全面に押し出してパワフルに腕を振るリリーフ時の姿も素晴らしいのだが、先発時に見せていたクレバーな投球は、石川の後を継ぐような存在になると感じさせてくれていた。今日は6回のマウンドを任され、阪神打線をしっかり無失点で抑えてみせた。「石川の勝利のために。」という思いが伝わってくる投球だった。
・荘司に関しては、石川との物語をまだ見出していないというファンの方も多いと思うのだが、私は魔球繋がりで物語を紡ぎたいと思っている。投球フォームも投手としてのタイプも全く違う二人ではあるのだが、青山学院大学時代に石川が投げていたシンカー(当時はスクリュー表記が多かった。)は、魔球だった。現在よりも腕の角度が高くそのリリースポイントから投げ込まれる抜けの良いスクリューは、プロの世界でも十分通用するボールとなっていった。石川を語るにあたってシンカー(スクリュー)という球種の存在は欠かすことが出来ないものである。
そして昨年のドラフト3位でヤクルトに入団した荘司は、チェンジアップという魔球でプロの打者のタイミングをギタギタに崩している。石川同様このチェンジアップがあったからこその今の荘司があるという部分は大いにあるはずである。荘司のこれからのプロ野球人生も楽しみである。
石川雅規と増田珠の物語
・石川に24年連続勝利となる187勝目をもたらしたのは、代打増田珠の一打が大きかった。6回表2-3というスコアで阪神はサウスポーの及川をマウンドに上げたのだが、ここで茂木の代打として登場した増田は、横浜高校の後輩及川から同点タイムリー2ベースを放ってみせた。今日の5得点の内4得点は空いてのミスでの得点だったのだが、大事な同点の一打は、増田の見事な一撃だった。まずは左殺しとしての立ち位置を確立してもらいたい。
石川雅規と金田正一の物語(番外編)
・スワローズの大投手といえば国鉄スワローズ時代「天皇」とも呼ばれた金田正一の名前が挙がってくる。絶対的な存在として君臨し、自分の勝ち星のために貪欲だったエピソードもいくつか聞いたことがある。石川とは全くタイプの違う大型サウスポーだと思うのだが、今日のゲームの6回表のヤクルトの攻撃中にベンチ前で投球練習を始めた石川の姿を見て、もしかしたら石川も金田同様の勝利への強い執着心、強いメンタリティを持っているのかもしれないと感じた。普通に考えて、石川が6回のマウンドに上がる可能性はかなり低かったはずである。それでも勝利のために投げ続けたいと首脳陣にアピールする姿は、どこかエゴイスト的な雰囲気も感じさせてくれた。この気持ちの強さがあるからこそ、今でも第一線で投げ続けられるのだと思う。
正直石川にとっては、ただの1勝であり、今日の勝利を特別視するのは間違っているのかもしれない。こういったブログ記事になってしまったということは、逆に言えば、石川のことを信頼していないことになってしまうのかもしれない。サラッといつも通りのブログ記事を書く方が良いことも分かっているつもりなのだが、それでも私にとって石川の勝利は特別に感じてしまうのである。石川雅規を中心とした物語の中には、ファンの存在も入ってきているはずである。この物語のほんの一部に関われていることに幸せを感じている。
冒頭にも書いた通り、試合内容自体は、褒められる内容ではなかったと思う。しかし、こういったゲームをしっかり拾えたこと。石川に勝ち星を付けることが出来たことは、明日以降プラスに働くはずである。
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コメント
あと200勝達成するまでにどんなストーリーが待っているのかファンもドキドキワクワクしながら応燕ですね!
アームさんへ
私は、ネガティブなタイプなのでワクワクよりもドキドキのほうが強いですね。でも少しずつ200勝が見えてきましたよね。
確かに褒められた試合展開ではなかったかもしれません。でも、これまで勝ち投手の権利を得たままマウンドを降り、あとに続く後輩達に勝ちを消された試合を幾度も見ている我々としては、こんな勝ち方でも、石川雅規にはその権利があるーと思っちゃいますよね。
上質なコラム、読み応えありました。特別視への葛藤も含め、私も思いは一緒です。24年間の長きに渡り、スワローズの背番号「19」は、ずっとこの人が守り続けてきたのですから。
ありがとうございました。お礼を言うのも変ですが、なんかお礼を言いたくなる「物語」でした。
grassさんへ
励みになるコメントをありがとうございます。
勝ち星というスタッツは、運の要素も含まれていますからね。
24年間という数字に重みを感じますよね。
何故か故障者が発生しやすい球団体質であったり、投手不利のホーム球場でありながら単独トップの記録を達成したこが、偉業の輝きを増しているように感じます。
チームも塩見村上なしでなんとか踏ん張っていますね。
超匿名さんへ
素晴らしい才能を持った投手も数多く入団してきましたが、石川は、これだけ長きに渡って投げ続けていることが素晴らしいですよね。