第101回箱根駅伝振り返り

大学駅伝


箱根駅伝(陸上長距離界全体)が新たなフェーズに突入したと感じたのだが、第95回大会辺りからである。いわゆる厚底シューズの登場以前、以後で長距離界のタイムは飛躍的に向上することとなった。私が陸上を見始めたのは、1990年頃からなのだが、ここまでの大きな時代の変化はおそらく初めてのことである。わずか5,6年の間に陸上長距離界のタイムは、これまでの常識とはかけ離れた記録が続出するようになった。箱根駅伝も高速化が止まらない状況にあり、今大会も素晴らしい記録が続出するハイレベルな大会となった。
総合優勝を勝ち取ったのは、2010年代中頃以降常勝軍団を築き続けている青山学院大である。厚底シューズによるタイムの飛躍的な向上という時代の変化にもしっかりアジャストして、強いチーム、ランナーを育成し続けている青山学院大のチーム作りは、見事なものである。
それでも今回も各大学ごとに振り返っていきたい。
事前記事はこちらから→「第101回箱根駅伝ポイント | ヤクルトファンの日記

総合優勝 青山学院大
・10時間41分19秒という大会新記録は見事なものである。戦前は青山学院大、駒大、國學院大の3強対決と言われてはいたが、2区黒田朝、3区鶴川、4区太田、5区若林、6区野村という圧倒的な「個」の力で、他大学をねじ伏せてみせた。
1区で中大に大逃げを許してしまったり、3区鶴川が思いのほか伸びなかったりと小さな誤算はあったと思うのだが、それ以上に黒田朝の感性抜群の走り、4区太田の4年連続の快走、5区若林の区間新、6区野村の56分台での区間新と他大学の追随を許さない走りで勝負を決めてみせた。
2区黒田の、エース揃いの中でも自分の感覚を信じて走り、嵐のような展開に巻き込まれずに好タイムを出す走りも凄いし、4区太田のまるでゾーンに入ったような集中力抜群の走りも凄いし、5区若林の陸上人生の集大成のような気持ちの困った走りも凄いし、6区野村の狙って出した56分台の区間新記録も凄いものだった。箱根駅伝ファン、青山学院大ファンを興奮させる素晴らしい走りだった。
原監督が作り上げた青山学院大という箱根駅伝の常勝軍団は、選手が毎年入れ替わる学生スポーツでも組織としてしっかり機能することが出来れば、長年に渡って学生トップクラスのチームを作り続けることが出来ることを証明してみせた。箱根駅伝での勝ち方を最もよく知っているチームと言って良いだろう。

2位 駒大
・青山学院大の対抗馬一番手は、駒大だとは思っていたのだが、佐藤が復路に回ったことから、往路は少し厳しい展開になるのかな?と感じていたのだが、3区、4区を任された1年生谷中、桑田が区間上位で繋ぎ、良い形でエースの一人、山川に襷を渡すことが出来ていた。多少誤算があったとすれば、山川が区間記録並みの記録で走れなかったことになるだろうか?山川も区間4位でまとめており、決して悪い走りではないのだが、前回大会の4区での走り、今回の5区での走り共に期待値には届かなかった。それだけ高いレベルを求められるランナーということなのだが、おそらく山川自身は非常に悔しい思いをしているはずである。
往路で青山学院大に大きな差を付けられながらも、復路で7区に入った佐藤が区間新の快走を見せるなどして、復路優勝を飾った所に「負けて尚強し。」の印象を残してみせた。青山学院大以上に長年に渡って学生トップクラスの地位を維持していることは驚異的な事である。
最後に篠原についても触れておきたい。順位は落としてしまったのだが、2区で1時間6分14秒という記録を残してみせた。学生トップクラスの実力を持っていることを示してみせた。安定感抜群のランナーである。

3位 國學院大
・出雲、全日本と二冠を達成しており、3位という順位にチームとして納得はしていないのかもしれないが、誤算もあった中で、総合3位に喰い込んだということは、実力がある証拠である。戦前から苦戦が予想されていた5区、6区は、区間下位に沈んでしまい、苦しんだのだが、平地での強さは健在だった。チームを牽引し続けたエース平林は、もう少しタイムを縮めたかったという部分はあったかもしれないが、走りと言葉の両面でチームを引っ張り続けた國學院大学史に残る名ランナーだった。
来季以降ということを考えても、粒揃いであり、層も厚い。青学、駒大の背中を追えるチームとして来季も期待したい。

4位 早大
・区間エントリーの時点で「非常に良いエントリーが出来ているな。」と感じた早大は、1区から上位でレースを進め続けてみせた。前回大会の2区で大学記録を更新した山口智が、今回は前半からハイペースで突っ込み、最後はタイムを落としてしまったのだが、気持ちを感じる走りを見せてくれた。長年の課題だった5区、6区に関しても、5区は「山の名探偵」こと工藤、6区は山崎と下級生が好走してくれたことは、来季に繋がりそうである。復路の4年生は、伸び切らなかった部分もあったが、ある程度想定通りのレースが出来たのではないだろうか。

5位 中大
・前回大会は、チーム内で感染症が流行ってしまい、実力を発揮しきれなかったのだが、今大会は、その借りを返すようにレース前半の主役に躍り出てみせた。1区吉居が、3大会前の兄を思わすような飛び出しで2位を大きく引き離しての区間賞を獲得すると、2区溜池も1時間6分台のタイムで繋ぎ、3区本間は区間賞の走りで後続との差を広げてみせた。5区園木は、若林の区間新の走りの前に逆転を許してしまったのだが、それでも粘り、往路は2位でゴールテープを切ってみせた。
この展開に持ち込めていただけに総合での表彰台も見えていたのだが、8区佐藤のブレーキもあり、最終的には表彰台には届かなかった。それでも見せ場は作ってみせた。来季以降、青山学院大、駒大と対等に戦えるようなチームになって欲しいものである。
選手個々の持ちタイムを見ると、今期の中大には物足りなさを感じたのも事実である。欲を言いたくなるチームである。

6位 城西大
・城西大は、チームが良い循環に入ってきている。卒業生のその後の活躍も目立っており、チームとしての存在感が増してきている。上級生になるにつれ、しっかり力を付けてくるランナーが多いと感じる。ダブルエースのキムタイ、斎藤は、2区、5区で奮闘し、しっかりシード圏内でレースを進めると、6区の1年生小林の快走、9区桜井の区間賞とエースクラス以外のランナーの奮闘も目立った。キムタイ、斎藤が最上級生となる来季はどんな駅伝を見せてくれるだろうか?着実に層も厚くなっているだけに楽しみである。

7位 創価大
・おそらく本来であれば、2区ムチーニ、5区吉田響という並びが理想的だったと思うのだが、今大会で走れる10名のランナーを考えた時に、2区吉田響、3区ムチーニという並びの方がチームにとってプラスが大きいという榎木監督の判断があったと思われる。そして2区吉田響、3区ムチーニの並びは見事に当たった。2区吉田響は、17位で襷を受けたのだが、前半突っ込み過ぎずに、上手く走ると、得意の上り坂が待つ、後半は一気にペースを上げ、1時間5分43秒という従来の区間記録を上回るタイムで順位を4位まで上げてみせた。昨季からの状態の良さを考えると2区で吉田響を見てみたい気持ちは持っていたのだが、ここまでの走りをするとは思わなかった。1年次は東海大で5区を走ったランナーであり、その後創価大に編入したという経緯、その後の覚悟を感じる走り、実際に残した記録を考えると箱根史に名を刻む名ランナーになったと感じる。
3区ムチーニも区間2位で繋ぎ、懸念されていた5区も山口が区間10位で凌いだのだが、復路で伸び切らず、7位という順位に留まってしまった。来季以降どんなチームになっていくだろうか?

8位 東京国際大
・前回大会は出場を逃し、チーム全体として悔しさを感じていたと思うのだが、今回の箱根駅伝では、改めて底力のあるチームであることを感じさせてくれた。大砲エティーリはいるものの、日本人選手の層という部分では、多少不安があると感じたし、2区でエティーリが区間新記録での区間賞を獲得したものの、往路を11位で終えた段階でシード権は厳しくなったと見ていた。
しかし復路の3,4年生のランナーが強さを感じさせる走りを見せ、シード権争いを最後まで繰り広げるとアンカーの大村は見事なスパートで8位争いを繰り広げていた4チームの最上位でゴールテープを切ってみせた。7区冨永、9区菅野の走りは見事だった。

9位 東洋大
・ここ数年、戦前の下馬評は高くなく、今回もエース梅崎や石田を欠くという非常に苦しいメンバーでの駅伝となったのだが、それでもシードを獲得したところに、東洋大の「伝統」を感じさせてくれた。正直2区終了時点で19位に沈んでしまった時には、ここから巻き返す絵が描けなかったのだが、3区の1年生迎、の好走から流れを引き戻し、4区岸本が区間3位の走りでシード圏内に押し戻すと、5区宮崎、6区西村も区間中位で繋ぎ、シードが見える状態でレースを進めることが出来ていた。黄金期を築いていた時期のような強さはないが、今いるメンバーで粘り強く戦えるのが今の東洋大の長所である。20年連続でのシード権獲得は、見事である。

10位 帝京大
・2区山中の好走もあり、上位進出もあるかな?という流れを作ったのだが、その後は、凸凹駅伝気味になってしまった。3区柴戸、7区福田辺りは、もう少し走ってもらいたかったというのが本音ではないだろうか?それでも6区廣田や9区小林大の好走でギリギリではあるが、シードを確保してみせた。毎年箱根駅伝終了後には、4年生ランナーが多く抜けてしまうため、来季は不安かな?と感じるのだが、それでも各ランナーが上級生になるにつれ実力を高めていく良い循環が出来上がっている。来季に関しても中野監督の育成手腕に期待である。

11位 順大
・僅か7秒差でシードを逃してしまったのだが、予選会が最下位通過(次点の東京農大とは1秒差)だったこと、おそらくエース浅井が本調子ではなく、1区に回ったことを考えれば、6人の1,2年生が出走した中での11位という総合順位は、今後に向けた明るい光を感じさせてくれる。1年生で2区、5区という主要区間を担った玉目、川原は厳しいレースになってしまったが、この経験は来季以降に活きるはずである。そして大学入学後苦しんでいた吉岡が、7区で区間2位の好走を見せてくれたことは、今後に繋がりそうである。シード落ちでも決して悲観的になる必要はないと思われる。

12位 日体大
・2区終了時点までで上手くレースの流れに乗れれば、シード権獲得はあり得ると思っていたのだが、2区山崎が嵐のような2区のレース展開に上手くアジャストすることが出来なかった。おそらく実力的にはもっと走れるランナーだと思うのだが、1区3位と好走した平島の走りを活かすことが出来なかった。その後のランナーも粘り強く走れていただけに、非常に惜しかった。後一歩届かなかったという所だろうか?

13位 立大
今季好調だった立大は、箱根でも十分に見せ場を作ってくれた。2区馬場の攻めの走り、5区山本の好走は特に印象的だった。他の大学と往路で互角に渡り合えたことが大きな収穫である。そういった展開に持ち込めただけにシード権獲得もあり得ると感じたのだが、復路は苦しいレースとなってしまった。主力の国安の不在、9区安藤が伸び切らなかったところが誤算と言えば誤算だっただろうか?それでも今後に繋がるレースになったと思われる。

その他の大学では、個人的にはシード権を獲得すると予想していた大東大が、レースの流れに乗れずに19位に沈んだこと、「個」の力は近年でも№1だと感じていた法大が、コンディションを合わすことが出来ずに見せ場を作れなかったことが印象的だった。

それでは最後に印象に残ったランナーをもう一度振り返っておきたい。
吉居(中大)
・スローペースを嫌ってスッと前に出ると、そこから兄吉居大和同様、ハイペースでの単独走となった。兄大和のタイムには及ばなかったものの2位を1分30秒以上離した走りは見事だった。今大会の主役の一人である。

エティーリ(東京国際大)
・史上最強の留学生ランナーとの呼び名に恥じない見事な走りを見せてくれた。2区に関しては、後半に上り坂があり、スピードのある留学生ランナーでも攻略に苦しむことがあるのだが、前半からハイペースで押した中での区間新記録は見事だった。チームのシード獲得の立役者である。

吉田響(創価大)
・首を左右に動かす走りは、一見苦しそうにも見えるのだが、その全力で走るように見えるフォームが、見ている者の心を揺さぶる。17位で襷を受けながらハイペースで追っていき、後半も崩れずに走り切り、黒田朝を抑えて、日本人トップタイムで2区で走破してみせた。箱根史に名を刻むであろう快走だった。

黒田朝(青山学院大)
・お父さんも法大時代から独特の感性を持ったランナーだと感じていたが、息子の黒田朝日も感性が抜群である。時計を付けずに、自分の感覚で走るとのことだが、他のランナーに惑わされずに自分のレースマネジメントを実行できる姿は唯一無二である。吉田響に1秒及ばなかったが、チームの連覇に大きく貢献してみせた。

篠原(駒大)
・1時間6分14秒というタイムは、素晴らしいものである。それでも順位を2位から5位に下げてしまったため、物足りなさも感じるのだが、駅伝、トラックでの安定した走りは、学生長距離界1,2を争う存在である。今出来る最高の走りは出来たのではないだろうか?

山中(帝京大)
・前回大会は、2区では多少見劣りするかな?と思っていたのだが、その中で粘りの走りを披露し、今回は、前回大会以上に期待値が高かったのだが、その中で1時間6分22秒というタイムで区間5位を獲得してみせた。最終的に7秒差でシード権を獲得したことを考えると、2区山中の力走は非常に大きかったことになる。希少価値の高い大型ランナーだけに今後の活躍も楽しみである。

平林(國學院大)
・区間8位に沈んでしまったという見方もあるのかもしれないが、難しいレース展開の中で総合優勝を狙うための攻めの走りが出来たのではないだろうか?もしかするともっと違ったマネジメントで走れば、もう少しタイムが出た可能性もあるのかもしれないが、今季2冠を達成したチームの主将としてそしてエースとしたチームに勇気を与える走りを披露してくれたのではないだろうか?

本間(中大)
・レースの流れに乗った中で1時間00分16秒という好タイムで区間賞を獲得してみせた。「流れに乗った中で」という部分はあったと思うのだが、それでもこのタイムは立派である。来季以降は、トラックでも駅伝でももう一段階レベルアップした姿を見せてくれそうである。

太田(青山学院大)
・4年続けて箱根では素晴らしい走りを見せてくれた。今大会もスピードのある中大に逃げられていただけに、太田の快走がなければ、レース展開はどう転んだか分からない。そんなプレッシャーの掛かる場面でも大きくタイムを稼げるのが太田の凄さである。レース中の集中力の高さは、独特のものを感じさせてくれる。

若林(青山学院大)
・若林も出場すれば毎回安定した走りを見せてくれるのが凄い。序盤に一旦はトップの中大に引き離されたのだが、慌てることなく自分のリズムを維持し、早い段階で中大を逆転してみせた。その後の走りも守りに入らず、最後まで勢いが衰えなかった。青山学院大連覇のキーマンの一人である。

工藤(早大)
・「山の名探偵」というネーミングセンスも面白いのだが、そこに乗っかって結果を残す工藤も面白い。上り坂を力強く上っていく様は、箱根5区への高い適性を感じさせてくれる。後2年、早稲田の5区は安泰である。

野村(青山学院大)
・厚底シューズが登場して以降、「6区で大きく失速するランナーが減ったな。」と感じており、タイムも大幅に上がってきていると感じてはいたのだが、56分47秒というタイムは衝撃的だった。MVP、金栗四三杯のダブル受賞に相応しい圧倒的な走りだった。

伊藤(駒大)
・野村の衝撃的なタイムを見ると多少霞んでしまうのだが、それでも伊藤の57分38秒というタイムも素晴らしい。平地やトラックでもしっかり実力を伸ばした中で6区山下りという特殊区間でも素晴らしいタイムで走破できること自体凄いことである。

小林(城西大)
・個人的に城西大は、6区の育成はそれ程上手くいっていない印象があったため、1年生小林の快走は驚きだった。こういうランナーが出てきたことからも城西大がチームとして好循環になっていることが伺える。

佐藤(駒大)
・今季は故障に苦しみ、久々のレースが箱根本番ということ、復路7区に回ったことを考えると本調子ではなかったと思うのだが、その中でも1時間00分43秒という特大の区間新記録を達成してみせた。「モノの違い」を見せ付けてくれた。レース展開的には、青山学院大の圧勝に終わる流れだったのだが、佐藤の快走でその流れにストップをかけ、駒大を復路優勝に導いてみせた。将来が楽しみなランナーである。

小河原(青山学院大)
・1年生でのアンカー起用は、意外だったのだが、区間賞を獲得し、強さを見せ付けてくれた。これが青山学院大の強さである。高いレベルでのチーム内競争があり、その競争を勝ち抜いてきたランナーの強さは本物である。1年生だろうが4年生だろうが強いものが走り、結果を残す。青山学院大の強さを象徴する10区小河原の快走だった。

第101回目の箱根駅伝も楽しんで観戦することが出来ました。原監督の登場以降、各大学が様々なアプローチで箱根駅伝に向かっていることを感じることが出来ます。何が正解なのかは分からないのですが、各大学の特色が出てきており、非常に面白いレースが展開されていると感じます。来季の大学長距離界も面白いものとなりそうです。




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感想(1件)




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コメント

  1. 超匿名 より:

     明けましておめでとうございます。
     青山の総合力は凄いものがありましたね。序盤にリードを許したとしても、その後の追い上げを盛り上げるスパイスに過ぎないとも感じてしまいました。
     今年は初日が暖かかったので往路は楽に現地観戦できました。

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