アメリカのローンデポ・パークで行われた日本ーアメリカの決勝戦は、ロースコアの接戦となったのだが、最後は大谷がトラウトを三振に斬って取り、3-2で勝利し、3大会ぶりに優勝を果たしてみせた。大谷やダルビッシュといったメジャーのトップ選手も日本代表に選ばれたこともあり、2月の宮崎合宿から連日大きく報道されていた。これまでのWBCと比べても大きく盛り上がっていることを感じることが出来る大会だった。日本は1次ラウンドから、準々決勝、準決勝、決勝と1つの負けもなく、頂点に駆け上がってみせた。見事な優勝だったと思う。今大会ではどこを切り取れば良いのか分からないぐらい、物語の多い大会になったのだが、個人的に印象的だった部分をいつか挙げてみたいと思う。
過去記事は以下の通り。
①栗山監督
・全ては今日のこの日のために、緻密に戦略を練った栗山監督の監督としてのマネジメントは見事なものだった。大谷、ダルビッシュ、鈴木(怪我で辞退)、吉田辺りのメジャーリーガーを招集し、初の日系人選手としてヌートバーも招集してみせた。これだけのメンバーを集めることに成功し、外部からの批判の声が出る可能性もあったヌートバーを人気者にしてしまうのだから恐れ入ってしまう。投手を15名選出したことも、決勝までの道程をしっかり想定した中での選出だったことも今日の決勝戦を見て、感じることが出来た。決勝での投手の継投については、試合前から「今永は短いイニング想定している。」という主旨の発言があったと思うのだが、それにしても3回から継投に入るとは思わなかった。メジャーのトップ選手を揃えるアメリカの強力打線を相手に、こまめな継投で勝負する策は、リスキーにも映るのだが、それだけ栗山監督が代表に選んだ投手を信頼していたということなのだと思う。そうでなければ、今永2イニング、戸郷2イニング、高橋宏1イニング、伊藤1イニング、大勢1イニング、ダルビッシュ1イニング、大谷1イニングという継投は中々決断できないと思う。監督と選手とでしっかり信頼関係が築けているからこその戦略だったのではないだろうか?
代表選手の選出、各選手の起用法、ゲーム内での戦略、選手、首脳陣とのコミュニケーションと監督業に必要となるマネジメント全てにおいて高い能力を発揮してくれた。だからこその7連勝での大会制覇だったと感じる。栗山監督は日本球界を代表する名監督になったと感じる。故野村克也氏からは、厳しい言葉をもらうことも多かった栗山監督なのだが、新時代の監督像を見事に作り上げてくれた。
②大谷翔平
・メジャーに渡ってからすでに5シーズンが経過しているのだが、その中で大谷は野球選手として、大きく成長し、今や日本代表をプレーでも気持ちでも引っ張ることが出来る中心選手となった。「漫画見たい。」、「漫画以上。」という言葉を大谷には何度使ってきただろうか?今回のWBCでの二刀流での活躍、激しく感情表出し、チームを鼓舞する姿は、主人公の姿そのものだった。
私は世代的にはイチローという存在がスペシャルな存在なのだが、大谷はすでに世界的にはイチロー以上に評価されていると思われる。サッカーのメッシやC.ロナウド、バスケのマイケル・ジョーダンのような、突き抜けたスーパースターになっている印象である。投げて、打って、走って、野球の楽しさを目一杯体現してくれる大谷翔平は、非常識を常識にしてしまうスペシャルな選手である。
③ダルビッシュ有
・高校時代から超有名人であり、投手としての才能も突出していたのだが、私達の世代からすると「悪童」、「やんちゃ」という印象もあり、そのエネルギーに満ち溢れた姿が魅力的な選手だったのだが、今大会では投手としての技術の高さと探求心に加え、若手選手を引っ張る姿(特には守る姿)やチームをまとめる姿、が目立った。大会の成績自体は、本人が納得するようなものではなかったかもしれないが、間違いなく今大会の優勝に大きく貢献した選手である。
④NPB投手陣の質の高さ
・今大会の日本代表のストロングポイントは、投手陣の質の高さにあると感じた。ダルビッシュ、大谷のメジャーリーガーはもちろんのことなのだが、NPB最強投手山本、令和の怪物佐々木、左のエース今永はすぐにでもメジャーで通用しそうだと感じたし、戸郷、伊藤、高橋宏、大勢辺りもボールのキレと縦変化でメジャーリーガーと堂々渡り合っていた。登板機会の少なかった他の投手も明確な強みを持った質の高い投手である。これだけの質の高い投手を数多く揃えられる国はそう多くはないのではないだろうか?
⑤日本におけるWBCという大会の価値の高さ
・このことに関しては、上記の過去記事で触れさせてもらっている。こんなことを書かせてもらった。→『第1回目が開催された06年大会の時にイチローが「最初にWBCと聞いて何でボクシングの話?と本当に思った。」という主旨の発言があったと思うのだが、その後で「WBC日本代表というものを名誉あるものに育てていかなければならない。」というような主旨の発言も行っていたはずである。このイチローの発言が17年の年月を経た中で実現してきていることを感じることが出来ている。WBC日本代表というものに憧れた少年たちが、今その舞台に立とうとしている。日本代表のバトンはしっかり次世代へ受け継がれている。このことに関しては、日本球界は誇りを持って良いと思う。WBCというMLBが中心となった大会は、サッカーのワールドカップのようなしっかりとしたレギュレーション、ルールにはなっておらず、「公平性」という視点で見るとツッコミどころがあまりにも多い大会なのだが、そんな大会に真剣に取り組んできたことが、日本球界の未来を作ってきたと言っても過言ではないのではないだろうか?』
日本の野球界においては、WBCという大会の価値は非常に高いものとなっている。だからこそ日本を代表するプレーヤーが代表で高いモチベーションを持ってプレーしてくれている。WBCへの憧れ、日本代表への憧れを語る選手の姿を見ることで、過去の大会のことも振り返りたい気持ちになった。イチローを始めとする代表選手が果たしてきた役割は大きいものがある。
※ヤクルト勢の活躍
最後にヤクルトの選手について触れておきたい。
村上宗隆
・第一次ラウンドから苦しみ、甘い球でもバットが出ない場面も見られたのだが、徐々に結果を残し始め、準々決勝以降は、主軸としての役割を果たしてくれた。特に大ブレーキとなっていた準決勝メキシコ戦でのサヨナラタイムリー2ベースは、見ているファンからしても心に響くものがあった。メンタル的に苦しい状況でも結果を出したことに村上という選手の強さを感じた。
山田哲人
・正直状態自体は、昨シーズンから大きく変わっているとは感じなかったのだが、それでも国際試合での集中力と落ち着きは、素晴らしかった。山田も30歳を超え、ベテランと呼ばれ始める時期に差し掛かっている。決勝戦での2つの盗塁からも分かるように、出来ることをしっかりこなす姿は、山田の長所の一つである。シーズンということを考えるとまだまだ楽観できないと思っているが、長年日本代表として培ってきた経験を今回のWBCでも発揮してくれたのではないだろうか?
中村悠平
・決勝のアメリカ戦ではフルにマスクを被り、優勝に大いに貢献してみせた。今大会を通して技術面も精神面も大きく成長したのではないだろうか?またWBCという大舞台を経験したことによって捕手としての目に見えない部分のスキルも高まったのではないだろうか?解説者の方々から中村を褒める声が多く上がっていることは嬉しいことである。
高橋奎二
・登板機会は少なかったが、日本代表としてプレーしたこと自体が、大きな経験になったのではないだろうか?登板機会が多く与えられた投手に比べればまだ、安心して任せられるレベルになかった部分もあるのかもしれない。それでもWBC球に苦しみながらも、結果を残したこと自体褒めるべきことなのだと思う。
シーズンに向けての調整という意味では例年に比べて難しくなる部分もあるのかもしれないが、シーズンでも「エース」と呼ばれるような投球を披露してもらいたい。
P.S 今大会は、日本で見ている限り、全5回のWBCの中でも最も盛り上がった大会になったと思う。他国の野球ファンがどういった気持ちを持っているのか?またMLB側がどういった感想を持っているのかは分からないのだが、もしかするとWBCという大会が成長し、今まで以上に公平性が確保された中で行われる大会になるかもしれない。国を背負って戦うことに素晴らしさや高揚感を各国の選手は感じているのではないだろうか?
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